2021年2月28日日曜日

絶叫ギャル

 とある日のダイビング、この日は海が少々荒れ気味で、海が荒れていると、水中よりも水面の方が危険な状況となります。揺れる船底で頭を打ったり、船に掛かっているハシゴを上る時に波に叩きつけられたりする危険があるので、エントリーとエキジットは気を付けなければならない。

若い女性客が、水面でレギュレーターを口から外したままで波に揉まれて、恐怖の絶叫を上げていた。

「レギュレーターを口から離しちゃダメだよ!!」と声を掛けても、恐怖でパニックになっている人間の耳には届かない。プロがすぐそばについているので、彼女を救出してハシゴに掴まらせたが、彼女はハシゴに掴まるのがやっとで、自力で船に上がることができず、ひたすら恐怖の絶叫。

「死ぬ!!!死んじゃう!!!!!」

泣き叫びながらも、船の揺れで、頭の先まで浮いたり沈んだりを繰り返している。冷静に教わった事をちゃんと実践すれば、別にどうってことはない出来事に過ぎないのだが、本人にとっては阿鼻叫喚の地獄絵図だったに違いない。

彼女の腕を掴んで船に引きずり上げて事なきを得た。

…おそらくこれは人間の本能からくる行動なのだろうが、身の安全を確保して、恐怖から解放されると、今度はケラケラと笑いだすのである。彼女は腰を抜かして立てない状態だったが、横たわったまま、腹を抱えて笑い転げている。この上なく不気味な光景だった。

そして港に帰って、船から降りると、つい今しがたの恐怖を思い出したのだろうか、彼女は座って下を向いたまま何も喋らなくなった。

…さすがにこんな光景を写真に撮るわけにはいかない。人間は、恐怖や緊張によってまったく思いがけない行動をとってしまうという事を、ダイビングの現場で何度か目にしました。それは自分とて例外ではない。

あの絶叫、しばらく耳から離れません…

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